マンガは自分の主観の幅を広げてくれる。no.9インタビュー

2020.12.02  2020年12月04日 特集

今回はアーティスト活動のほか、CMや広告など、様々な音楽制作を手がけるno.9さんをゲストに、これまで楽曲制作をしてきた背景や、マンガが与えた影響、そして「メメントメモリ」とのコラボプロジェクトについてお話を伺います。

音楽を始めたきっかけは専門学校のアートの授業

―まずはno.9としての活動を教えて下さい?
作品作りのアーティスト活動と、クライアントワークの大きく2軸で活動しています。
アーティスト活動は、自分のクリエイティブ欲求のためだったり、no.9を聞いてくれるリスナーのために音楽を作っている感覚です。クライアントワークはno.9というよりは僕個人がやっているという感覚に近くて、仕事としての意義もありますし、一番好奇心が湧く活動でもあります。
その他にはライブ活動をしたり、レーベルのプロデューサーをしたりしています。

―どうしてno.9というアーティスト名にされたんでしょうか?
10代後半から20代前半にかけて、哲学的な方向というか、コンセプトアート、環境音楽とかに興味を持って制作していた時期がありました。でも、誰にも聞いてもらえなかったんですよね。
そんなときに、ビートルズの「Revolution 9」という曲に出会いました。この曲はノイズが並べてある実験的なサウンドコラージュ作品です。
「Revolution 9」を聞いたとき、ビートルズの実験的なことをポップカルチャーの中に散りばめるその凄さ、偉大さ、面白さに感化されたんです。
その「Revolution 9」のノイズの中に「no.9」と何度も繰り返しつぶやいているテープがあるんですが、それに対して僕は「呼ばれてる」と感じたので作家名にしました(笑)。

―音楽を始めたきっかけは何だったのですか?
18歳のときに専門学校に行ったのですが、そこにアートの授業があって、まだ当時はアートの「ア」の字も知らなかったので、ものすごい刺激を受けて。そのアートの授業の先生と一緒にバンドをやりはじめたのがきっかけでしたね。でもまぁアートの先生とバンドをやるんだから普通じゃない音楽だったんですけど(笑)。

仕事をもらうとき、3%は「むちゃくちゃ不安」

―楽曲制作の中で、苦労することや悩みはありますか?
お仕事のお話をもらうといつも、97%くらいはお仕事をいただいて「嬉しい、面白そう」という気持ちなんですが、3%は「むちゃくちゃ不安」なんです。だって、依頼して下さっている方も、僕も、どんな音楽がフィットするか明確に分かっていないんですから。だから常に僕は明日の自分に期待するしかないんですよね。そういう意味では、仕事を受けてから24時間くらいはずっとそのことばかり考えています。
でも、あるドキュメンタリーの中で映画音楽の巨匠であるハンス・ジマーが、打ち合わせでは大口を叩いていたのに、家では小さくなって震えているというエピソードを知って安心しました。ハンス・ジマーでもそうなんだって。

―楽曲制作のやりがいや一番うれしい瞬間はどんなときでしょうか?
一番は頼まれること、選ばれることです。世界中に音楽家がたくさんいる中で、僕に頼んでくれるということ自体が奇跡だと思っています。それが何よりのモチベーションです。
あとは、ライブであれば、来てくれたお客さん、CDなら買ってくれたお客さんがモチベーションの大部分ではありますね。作った音楽を喜んでもらえたときは報われるというか、ホッとする部分があります。

音楽があふれる時代にはアーティスト自ら世の中に一石投じる必要がある

―no.9として目指している方向性や、ビジョンはあるのでしょうか?
一生音楽を作り続けられる環境を自分で作れるかどうかですね。生活も含めて音楽家として全うできるかにモチベーションがあります。依頼をしてもらって喜ばれるということだけが明日を約束してくれるのであって、それ以外にこの仕事を続けられる道はないと思っています。リスナーさんに「今回の曲最高でした」と言われることが活動を続ける許可みたいになっているんですよね。作り続けていいと言われているような。

―ストリーミングなどデジタルの波が来る中、今後音楽業界はどうなっていくのでしょうか?
僕の最新作「Switch of LIFE」では、CDへの感謝とか、CDを販売してくれたタワーレコードさんなどへの感謝を込めて、店頭におけるようにCDサイズのダウンロードパッケージを作りました。CDは入っていないんですけどね(笑)。
なぜそんなことをしたかというと、「CDを買う」という出来事の実感は質量に依存していると思っていて、「新譜重いな」というのを肌で感じてほしかったからです。
僕としては、CDがなくなる時代へのメッセージのつもりです。今の時代のように、ストリーミングサービスやユーチューブで無限に音楽があふれる時代には、こうやってアーティスト自らがアクションを起こして、世の中に一石投じなくちゃいけないとも思っています。
ただ勘違いしてほしくないのですが、僕自身は現在の流れは当然で、CDがなくなってしまうことに執着はありません。流れに対して考えることが大切だと思っています。

好きなマンガは「MASTERキートン」「SWAN」「ブッダ」

―いつから、どんなマンガを読み始めたのでしょうか?
現在もマンガは読みますが、一番読んでいたのは、中学生から22歳くらいですかね。
大人になるとお金を貯めて買うということはしないじゃないですか。でもお金を貯めて買うものってすごく残るんですよね。その当時は「キン肉マン」だったり、誰もが読んでいるマンガを読んでましたね。

―お気に入りのマンガと、そのマンガの気に入っているところを教えてください
そう言われて思いついたマンガが3つあるんですけど。
1つ目は「Monster」とかを書いてる浦沢直樹さんが絵を描いた「MASTERキートン」という作品です。もともと、僕はマンガといい、映画といい、その作品の世界に住んでいる人かように作品に入り込んでいってしまうタイプです。だから自分の知らない国や世界で、斬新な発想を使って問題を解決する「MASTERキートン」は、読んでいるときは世界中を旅している気分になれるのが楽しかった。

2つ目は有吉京子さんの「SWAN」というバレエ人生を描いた少女マンガで、実際にいるバレリーナさんやバレエ団、作曲家、振り付け師が登場します。で、バレエの世界ってめちゃくちゃストイックなんですよね。読んだ当時は、僕も自分に対してめちゃくちゃストイックな時代だったんですが、「SWAN」を読んだときは己の甘さにほとほと呆れました。ストイックなのにそれでも行きたいところに到達できない彼らの世界に感動しました。だから20代の頃はスワンのメンタルで生きていました。今はもっと甘いですけどね(笑)。

3つ目は手塚治虫の「ブッダ」です。宗教って教えが完璧で、忠実で、というイメージがあると思うんですけど、ブッダは人なんです。ミスも犯すし、ダメダメです。ブッダは裸足で歩いてるんですが、裸足で歩くと虫とか殺しちゃうじゃないですか。もし宗教に忠実だったら、そのせいで「歩けない」という結論に達するかもしれないですよね。でもブッダはそこで苦悩して、苦悩した挙げ句、「僕が歩くことで誰かを殺している」という意識を持ったうえで、「ともに生きよう」という結論に達するんです。
誰もがブッダになれるわけではないですけど、僕らにも近い考え方ができると思うし、生きる上で大切なことを教えてくれる気がして、今でも読み返すことがありますね。

どんなスポ根マンガでもだいたい熱くなる

―no.9さんがマンガを読むのはどんなときでしょうか?
いつも夜寝る前に読んでいますね。音楽制作ってものすごく長い時間がかかるんですよ。それが終わってすぐは興奮状態で眠れないことが多いです。だから、2時間位はマンガを読むとか映画を観るとか、音楽以外のことでクールダウンする必要があるんです。

―マンガに影響を受けたり、心を動かされたりした経験はありますか?
「SWAN」をはじめ、「スラムダンク」、「はじめの一歩」のようなスポーツマンガには影響を受けました。僕らアーティストは一生その仕事を続けられると思っているけど、ほとんどのスポーツって、下手したら30代半ばとか人間的には一番充実しているときに引退しなきゃいけないじゃないですか。スポーツマンガはそういう、「今頑張らなきゃ絶対明日はない」という緊張感を教えてくれます。だからどんなスポ根マンガでも、僕はだいたい熱くなりますね(笑)。

―no.9さんにとってマンガを読むってどういうことですか?
いつもマンガ読んでいるときに音楽が聞こえているんですが、それは自分の主観や感情が形になったものであって、その主観は誰かの主観と必ずしも一致しないと思っています。
僕はマンガを読むのはすごくゆっくりな方だと思うのですが、それは「僕はこのシーンについてこう思うけど、他の人はどう思うだろう」とか余計なことを考えながら読んでるからで(笑)。映画だと先に進んでいってしまいますが、マンガなら自分のスピードで読んでいけますし。そういう意味では、マンガを読むというのは、自分の主観の幅を広げる作業なのかも知れませんね。

「メメントメモリ」とのコラボの第一印象は「ムズい」

『メメントメモリ』1巻(電子特典付き)は各電子書店にて発売中!

―「メメントメモリ」とのコラボ企画の話を聞いた時、率直にどう思われましたか?
第一印象は「いやぁムズいな」と思いました。
アニメならまだしも、マンガに音楽を付けたことがなかったですし。それに、好きなマンガがアニメ化されたときに声優さんのイメージが違うと違和感があることってありますよね。そういう感覚を読者に与えたら嫌だなと思いました。しかも、依頼されたとき、「今回は担当の方がめちゃくちゃ音にこだわってます」となぜかいきなりハードルを上げられたんですよ(笑)。

――see the truthはどんなことを考えながら楽曲を制作したんでしょうか?
主人公達って高校生ですよね。当時って、誰が好きとか部活がどうとか、そういうことだけでも結構目一杯ですよ。毎日やりきってる、みたいな。そんな高校生達があんな世界にいて能力も持っていたら、もうパニックですよね(笑)。
しかも、そのパニックは大人の持つパニックとは違うんじゃないかな、と思ったんです。もっと荒れてもいいし、もっと逆に静寂でもいいし。
だから、曲の中にはそんな高校生特有のどこにも当て場のないエネルギーや不満、不安、大人に対する抗いというような、主人公たちの心情と、解決していくという物語性込めました。
ちなみに、この曲を作り始めたとき、まずなんとなくエレキギターを持ちました。たぶんそれは僕がギターを初めて持ったのが、主人公たちと同じくらいの17歳だったというのが無意識下にあったんじゃないかな。

注目すべきは「キーン」

―see the truthの中でリスナーに注目してほしい部分や音はありますか?
あの曲自体に存在意義があるのではなくて、あくまでメメントメモリというマンガのサウンドトラックなんですよね。だからあれを聞いて、メメントメモリを読んで、次のメメントメモリの展開を想像してほしいと思っています。

あとはマンガ特有の擬態語とか擬音語を音で表現しているところに注目してほしいですね。この曲でも作中にある「キーン」という音を表現するために、2日くらいずっと試行錯誤しました(笑)。でも、その結果、みなさんが思っているであろう最大公約数の「キーン」ができたんじゃないかなと思います。他にも、マンガの中で読者が聞こえているであろう動作音を音楽に散りばめたので、そのあたりも聞いてみてくれればと思います。

『メメントメモリ』1巻(電子特典付き)は各電子書店にて発売中!

【プロフィール】

no.9 (ナンバーナイン)

「音と共に暮らす」をテーマに日々の暮らしに寄り添い、豊かでメロディアスな楽曲を生み出す作曲家・城 隆之のソロプロジェクト「no.9」として活動。

90年代初頭から作曲活動を開始し、98年にno.9名義でエレクトロニクスとアコースティックの融合による作品を発表。
2018年の最新作「Switch of LIFE」2013年「The History of the Day」をはじめ『usual revolution and nine』(2008年)、『Good morning』(2007年)など8枚のフルアルバム作品をリリース。

CDリリースなどのアーティスト活動と平行して、TVCMやWeb広告、映画、映像作品やテレビ番組など数々の音楽の制作、公共機器のサウンドデザインも手がけている。

主なサウンドデザインとしてJAL国内線チェックイン端末や、オフィス機器、福祉施設のシステムサウンド開発、各種医療機器などを始め、公共施設のサウンド演出、SONYの360 Reality Audioのコンテンツ開発など多岐にわたる。

他にも橋本徹氏監修の名コンピレーション『MELLOW BEATS,FRIENDS&LOVERS』、スクウェア・エニックスのリミックス作品集『Love SQ』、坂本龍一氏のトリビュート作品『 – Ryuichi Sakamoto Tribute – 』、PROGRESSIVE FOrMから『FORMA 4.14』、インパートメントから『my private space』など数多くのコンピレーション作品にも参加。

ライブパフォーマンスでは自身が率いるバンドセット[ no.9 orchestra ]を結成、自身の楽曲に加えバンドオリジナル楽曲にギターやドラム、ヴァイオリンやピアノといったフィジカルな音楽性が加味され、フルオーケストラを想起させる壮大なライブパフォーマンスを披露。
2014年、初のバンドアルバム [ Breath in Silence ]をリリース。

音楽レーベルSteve* Music エグゼクティブ・プロデューサー。

撮影:堅田ひとみ

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GANMA!ニュース編集部

GANMA!ニュース編集部です。毎日漫画やアニメ・映画にまつわるニュースを配信しています。